月夜見 
“男心と秋の空。”

      *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより
  


 今回のタイトルを見て、やだ Morlin.さんたら間違えてるとか思った方はいませんか? それも言うなら“女心と秋の空”でしょうに…と。実は、昔は“男心”だったんですってよ、奥さん。世に変わりやすいものと言えば“男心と秋の空”で、女心は“冬の風”と対になっているそうでして。しかもこの言い回し、原本は外国なのだそうな。男心というのを手持ちの辞典(三省堂)にて紐解くと“男性特有の心情”とあり、その次にくるのが“男の浮気な心”だそうな。それに対して“女心”のほうは、女に特有の“微妙な心理”となっており、次にくるのが“女が男を慕う気持ち”。古来より、変わりやすいのは男心の方だったらしいです。男性の方が移り気なのは、実はDNAレベルの“本能”だとする説もある。男にせよ女にせよ、自分の遺伝子をこそ次の世代へ遺したい伝えたいと思うもの。それは生命保存の本能であり、それに従うならば、男はたくさんの女性へ種をばらまかねばならず、それがために多くの女性へ目移りするのだそうで。逆に女は、自分がこれと見込んだ強靭で優秀であろう精子の持ち主は、出来ることなら独占したい。そうやって自分の遺伝子をこそ優先して遺したいと思うもの。よって、浮気をされた場合に、コトの発端である腰の落ちつかなカレ氏の方ではなく、相手の女をこそ憎む不思議な女性心理も、これで説明がつくのだそうな。
 そいや、これは 関西地方の“おばちゃんたちのオピニオンリーダー”やしきたか○んさんが仰ってたことですが。男と女の在り方の“時流”というものは、その時その時を代表する歌謡曲の変遷を見りゃあ一目瞭然なのだそうで。昔はというと、それが不倫なんかじゃなくたって、女は男の横暴や浮気に耐えるしかなかったし、一方的に別れを持ち出すのも男の方。恋なんてどうせそんなものと、どんなに悲しい恋であれ、女はすがって待って耐えるのが定番のように歌われたものだが。恋慕の情ゆえに日陰に甘んじることも往々にしてある存在から、徐々に徐々に。やがては女も言いたいことを言うよになった。女性の社会進出で形勢は大きく変化をし、それまでの“尽くすのが美徳”だった定形は崩れ去り、まずは愛を囁いてくれなきゃ始まらないとする、あくまでも対等な“王女たち”の天下になった。女性も自由な恋愛をするし、気まぐれな恋人に愛想を尽かしての“さようなら”を自分から言うよになった。しまいには男の側から“俺の話を聞け”と、貸した金なんてどうでもいいから“5分だけでいいから”と説くようになったほどに形勢は逆転したのだ…との説が、それぞれの時代時代の色んな歌謡曲を引用して説明されてて、ホンマに可笑しくて可笑しくて堪らなかったものですが。


 じゃあ“乙女心”はどうでしょか。例えば、初恋はなかなか成就はしないと申します。なのに、そうそう簡単には諦められぬものでもございます。何せ、初めての体験ですんで、やることなすこと感じることのいちいちに印象も強く。一世一代の恋だと思い込むものだから、破綻したって未練も強かろ。それが証拠に、どんな幸せな結婚をしようと忘れ得ぬもの。純粋無垢だからか、それとも破れるなんてな“負の未来”は、自分には絶対にやって来ないと信じているのか。一番初心な女心ではありますが、繊細過敏に揺れはすれども、案外と…諦めるなんてなかなか思いもつかない。若くて柔軟だからこそ、結構 頑丈強靭な“はぁと”なのかも知れませぬ。





            ◇



 なんていうよな、相変わらずに意味のよく分からない口上にて始まりましたが。

  「ゴムゴムのぉ〜〜〜、ピストルっ!」

 ご安心を。主人公に寄り添うものとしてモノホンの乙女心も出て来る、某『愛楯』とか某『お侍』のお話ではございませぬ。今日もお元気、よくよく弾むお声での号砲一喝も高らかに。悪魔の実によって得た不思議な力、健やかで伸びやかなお声同様、ゴムのようによく伸びる腕をば“ぐい〜んっ”と。少しほど斜
(ハス)にした自分の身体の後方へと、引いて引いての反発力を溜め込むと、
『ピストルっ!』
 という恫喝と同時に ぶんっと前へ。風を切っての目にも止まらず、ぎゅうっと握りしめられた拳が宙空を滑空してゆき、
「…っ、ぐあっ!」
「ぎゃあぁっ!」
 これは堪らん、三十六計逃げるにしかずとばかり、現場から逃走しかけていたいかにもチンピラ風の男らの二人連れの背を、どど〜〜んっと突き飛ばしての、足から宙へと浮くほどの威力で吹っ飛ばすから物凄い。突き飛ばされての ずでんどうっと、前をゆく兄貴分の背中へ倒れ込んだ子分へと駆け寄って、
「お手配中のカマドウマ一味っ、神妙にお縄を頂戴しやがれっ!」
 威勢よくも捕縄を懐ろから取り出しの、それは手際よく後ろ手に縛り上げているのは下っ引きのウソップという青年で。くそぉ〜っと歯咬みをする手下を容赦なくのぐるぐる巻きにしているのを眺めつつ、

 「カマドウマ? なんだそりゃ。」

 遠く遠くのお空の星になったか、少なくとも家並みの屋根は飛び越えてった、兄貴格の飛んでった先を。眉の上へ小手をかざして眺めやってた童顔の親分。聞き覚えが無い名だったものか、大きなお目々をキョトリと見張って、そりゃあ すぱっと訊いてきたものだから、
「あ…。」
「ちょ、ちょっと待てよ、おいっ。」
 ありゃりゃあと呆れたウソップが“さあさ立ちませい”と引っ張り上げた子分の方が、今度は黙ってられなくなったらしい。
「じゃあ何か? お前、俺らの正体も判らずに、十手突きつけての殴りかかって来やがったのか?」
 そんな無鉄砲はあり得ないぞと言わんばかり、揉み合っての殴り合いにて擦り傷こさえたオデコに青筋を立て立て。背後に立っての背伸びをしていた、子供みたいなあっけらかんとした笑顔を晒してる岡っ引きへと声を掛ければ、

  「うん、知らね。」
  「〜〜〜〜〜。」

 これでも結構、悪党としての名を馳せていたのになと。あまりに張り合いのない、無邪気な言いようをされたのへ、今度はがっくり、その肩を落とした若い衆。突然因縁をつけ始めの、暴れ出した彼らのいた茶店の手前、左右に伸びてる通りの端っこスレスレへ接する半円を描いてのという周縁を、取り巻くようにしての見物に立っていた野次馬の皆様も、どうやら片付いたようだねと三々五々に散っており。彼らが突然罵声を上げての暴れ始めた、悶着が起きたばかりの頃合いはともかくも。この親分が駆けつけてからのこっち、一般市民の皆様へも、さして緊迫感はなかったらしいことが伺い知れる長閑さで。
「そっちこそ、この親分を知らなかったんだからお相子だ。」
 どこの町から流れ来たかは知らねぇが、たった一人でも両手で足りねぇ無頼の者をば絡げてしまえる、麦ワラのルフィを知らねぇで、よくもまあこのグランド・ジパングで悪さをしようと構えやがったもんだ。我がことのように威張って言ってのけるウソップの舌は、今日も今日とて絶好調らしかったが、
「おい、ウソップ。そいつを番所へ連れてってくれねぇか。」
「え? あああ、はは、はいっ。」
 町の人からの急報にて駆けつけて、自称・名うての悪党“カマドウマ”たちの恐喝目的の因縁つけと大暴れを静めた親分さんは。
「どっかで延びてるだろう兄貴分の方も、何なら探して回収しといてくれや。」
「それは構わねぇが…親分は?」
 これからどうなさるんで?と訊いたところが、

  「〜〜〜〜。ななな、何でもいいだろがよっ!////////

 おおう、いきなり赤くなったぞ、判りやすい親分だなぁと。どうやら、所謂“野暮用vv”があっての“それじゃあそういうことで”な撤収であるらしいと察したウソップ。
「判りやした。何かあったら探しやすからね。」
 呼び子の笛へ、ちゃんと応じてくださいよ? 親分、こないだも近所のガキとベイゴマ回しに夢中になってて、捕り方の笛に気がつかなかったんだからと。頼もしい英雄だぞと持ち上げたその舌の根も乾かぬうちに、取っ捕まえた輩の前でそんなこき下ろしを言いつのる子分もまた、なかなかの度胸だったりするのではなかろうか。
(苦笑)
「判〜かってるっ!」
 言われた方が動じてないから…無礼なこき下ろしだと気づかないんだろうなと。お縄を受けた若いのだけが、このやりとりへと呆れていたりするのだが、ままそれはともかく。今日も今日とて、グランド・ジパングの天下太平な空気は、頼もしい岡っ引きの親分の働きで しっかと守られているようだった。





 とて。


 その、頼りになりまくりの親分さんが“それじゃあそうゆうことで”との曖昧模糊な言いようにて、行き先を誤魔化して向かった先はといえば、
“…えっとぉ。////////
 判るお人にはお馴染みの、シモツキ神社の境内だったりし。赤い鳥居をくぐっての、石段を上れば、お社までを導く四角い敷石を並べた道が続く。きれいに掃き清められた白っぽい平らかな石の上、真っ直ぐな角っこを黙視で数えるようにしての、ひょこひょこ楽しげに歩いてゆけば。やがて辿り着くのは社務所とその傍らに鎮座まします、今は緑の葉っぱが瑞々しくも茂る、大きな枝垂れ梅の木だったりし。樹齢は果たしていかほどか、それは見事な枝振りに、たわわに咲きそろう花の密度も分厚くて。この藩の春の初めのお祭りは、まずはこの梅の開花を祝うところから始まるほどに、町の皆にも親しまれている名物木だが、
「…っと。////////
 この親分さんに限っては、別の意味合いからも大切な木だったりし。懐から取りい出だしたるは、紅の薄紙をよじって こさえたこよりが一本。力持ちで捕り物上手だが、それ以外ではからっきし、何をやらせてもあんまり器用な方じゃない親分が、それでも練習に練習を重ねた末に、今じゃあ七夕飾りの短冊用にとまとめて束ねての売りに出してもいいくらい、それは上手に搓れるよになった真っ赤なこよりを、
「えっと、だな。////////
 右よ〜し、左よ〜しと、辺りに人の気配がないのを確かめてからという、これもまたがさつな彼にはめずらしい慎重さで見回してから。そぉっとそぉっと、枝の一つへ素早く結ぶ。緑の中に拮抗色の赤…だとはいえ、あまりにか細い存在は、よくよく見ないと紛れてしまう。そんな微妙な合図のこよりを、この春先から結ぶようになった親分さんは、

 「………。///////

 自覚は全くないものの、結び終えると妙に…幸せそうにお顔が緩んでおいでであり。首条うなじまでを仄かな緋に染め、どこの置き屋の下地っ子だろかと、ついつい間違えちゃうほど可憐な後ろ姿を晒しての、ポツンと立ち尽くしていたのだけれど。

 「………あ?」

 ぽちり。
 前髪が辛うじて隠している真ん丸なおでこへと、何か冷たいものが当たった。おやや?とお空を見上げれば、今度は親分のあまり高くはない鼻の頭にもぽちり。赤い格子柄の衣紋に包まれた肩先へもと落ちて来たのは、
「あやや、夕立だ。」
 まだまだ残暑が厳しい頃合いだからか、それでも夏場のような入道雲の気配もないまま、しとしとと静かに降り出した雨は、ルフィが口にしたよな“夕立”と呼ぶには大人しめの、所謂“にわか雨”であり。これはいけないと、社務所の庇の下へと飛び込んでの雨宿り。いい場所に居合わせたよなと、段々と雨脚が本格的な降り方のそれへと増してゆくのを眺めつつ、ふと、視野に入ったのが枝垂れ梅。

 「あ…。」

 しまった、こよりは結びやすいようにって柔らかい紙を使ったから、この雨に打たれたら溶けてしまいはしないだろうか。水を吸ってのしおれてしまい、ますます見つけにくくならないだろか。梅の緑の葉が たたんたたんと雨に弾かれての揺れるのから、目が離せなくなった親分さんの、

 「〜〜〜。」

 何だか切なそうなお顔に惹き寄せられたか、

  「どうしたんだ? ルフィ親分。情けない顔になってよ。」

 横合いからそんなお声を掛けて来た人がある。さては捕り物でしくじったのかい? そんなんじゃないやい。そうかい? 先だっても同心の風車のゲンゾウの旦那から、あんまり突っ走るんじゃあないぞとお叱りを受けてなかったか?

 「あれは、俺が気を逸らせての怪我をしかかったから。それでと窘め…」

 て下さっただけ…と。続きかかった声が立ち消える。小袖へ重ねた墨染めの衣紋は擦り切れていて、首に掛けたる大数珠も、よくよく見やれば傷だらけ。錫杖片手に饅頭笠をひょいと持ち上げ、にやりと不敵に笑って見せたは。ルフィもよく知る、雲水のゾロというお坊様ではないかいな。

 「ぞろっ!」
 「あいよ。」

 焦る理由なんざない余裕からか、合いの手よろしく、いつものお返事をしてくれる。細められた目許とかが、

 “それでも男臭くてカッコいいなぁ。////////

 ぽややんと呆けてしまったそのまんま。間近になったる凛々しいお顔を吸い込まれるよに見上げていれば。
「親分さんも雨宿りかね。」
 訊かれて…わたわた。う、ううううん、そうだ。それにしたって珍しい所にいるじゃあないか。
「何かのお調べかい? けど、町方だと管轄差配が違うんじゃあなかったかい?」
 寺社方のあれやこれやは、専門の奉行がいるので、町の事件とは微妙に管轄が違う。それを差してのそんな利いた風な言いようをする、緑頭の精悍なお坊様へ、
「坊さんこそ、何でまた神社にいるんだよ。」
 別にそういう用向きで来た訳じゃあない親分。そっちのがよっぽど関わり違いじゃないかよと。口元を尖らせての言い返せば、
「俺はお勤めで来た訳じゃないからな。」
 しれっと応じてのそれから、

  「どっかの誰かさんが、梅の木へこよりを結んでないかって
   それを見に来ただけだかんな。」

   ……………あ。//////////

 しししっと、悪戯っ子のような笑い方をしたお坊様。いかにも軽快なノリのお言いようへ、ポンッと素早い反応をして。ますますのこと真っ赤っ赤になってしまった親分だったりし。

  ――― おいおい、どうしたよ。
       な、なにがだっ。////////
       ゆで蛸みてぇに真っ赤んなっちまったからよ。
       気のせいだ、そんなのっ。////////

 そうか? そうだっ。残暑が厳しいから、まだまだ暑くて汗だって出らぁ…だなんて。よく判らない理屈を言い立ててのムキになる親分さんへ、判った判ったと宥めてやって。

  「せっかく逢えたのに、そんな怒ってられっと詰まらないじゃないか。」

 これで勘弁してくんなと。ルフィ親分の頭が余裕で入りそうな紙袋いっぱいの人形焼きを、まだ温かいまま“ほれ”と差し出した坊様であり。
「う〜っと。////////
「まだ勘弁出来ねぇか?」
 案じるようにお顔を覗き込まれてのつい。ぶんぶんとかぶりを振っての“そんなことないない”といいお返事を返した親分へ、

  「そか。」

 にっぱしと微笑ってみせた晴れやかなお顔へ、

  「〜〜〜〜〜っ。////////

 ますますのこと、真っ赤っ赤になった親分さんだったってことは、はい、皆様のご想像通りでございますvv ぱたたぱたたと雨に打たれて揺れてるこよりも、今はあんまり心配な見栄えじゃあなくて。結んだそのまま、御利益があったなんてと、むしろホッとした親分で。

 「夏場はどっかへ避暑にとか出掛けることはあったのかい?」
 「うっと。かざぐるまのナミやサンジや、チョッパー先生、
  それから、おリカとウソップとって顔触れで。
  海辺の方へ潮干狩りがてらに涼みに行ったぞ。」

 ここで余計なお世話の豆知識。昔々の日本人には“水泳”とか“海水浴”とかいった“泳ぐ”習慣はなかったそうで、それが屈強な大人の男の人でも泳げなくって当たり前。船頭さんだの、木場の職人さんだの、漁師や海女ででもない限り。はたまた、武士が習練の中で“泳法”を学んでいたことを除いて、水に浸かってのすいすいと、抜き手を切っての鮮やかに…なんて泳げる人はむしろ珍しかったそうです。海水浴は、最初は療法の1つとして西洋医学から取り入れられて始まったとか。よって、江戸時代が明けるまでは、庶民の間にそんな“娯楽”はなかったので悪しからず。

 「お彼岸になったらサンジがおはぎを作ってくれるんだ。」
 「何だなんだ。
  あいつが作ったのじゃなくとも、そこいらの茶店でだって食べられようが。」
 「えと、うん。それはそうなんだけれどもな。」

 なんでそんな、いきなりムキになるんだ? いやその…なんだ。//////// 今度は坊様が赤くなったのへ、屈託なく笑った麦ワラの親分さん。雨さえ忘れての楽しげに、お話を始めた彼らへと。真っ赤なこよりも“良かったですね”と微笑っているよにも見えたとかいう話ですvv







  〜 ひとまず しまい 〜  07.9.16.


  *季節の折々に親分さんのご登場というリズムになって参りましたね。(苦笑)
   相変わらず“ヲトメ”な麦ワラの親分さんでして、
   今回は差し詰め、
   先だっての“井戸換え”聞き間違えの段への敵討ち?
(くすすvv)

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